おきなぐさ (翁草) 

学名  Pulsatilla cernua (Anemone cernua)
日本名  オキナグサ
科名(日本名)  キンポウゲ科
  日本語別名  ネコバナ・ネコグサ、シャグマグサ、ウナイコ、チゴバナ
漢名  朝鮮白頭翁(チョウセンハクトウオウ, cháoxiān báitóuwēng)
科名(漢名)  毛茛(モウコン,máogèn)科
  漢語別名  
英名  Korean pulsatilla
2009/04/20 仙台市東北大学植物園

2004/04/10 小石川植物園

2008/04/15 小石川植物園

2007/05/03 薬用植物園

 オキナグサ属 Pulsatilla(白頭翁 báitóuwēng 屬)の植物には、広く北半球に約45種がある。

  モウコオキナグサ P. ambigua (蒙古白頭翁・新疆白頭翁) 『中国本草図録』Ⅸ/4119
  P. campanella(鐘萼白頭翁・阿爾泰白頭翁)
  オキナグサ P. cernua (Anemone cernua;朝鮮白頭翁)
    キバナオキナグサ f, flava
    フキヅメオキナグサ f. plena
    チョウセンオキナグサ var. koreana(P.koreana;朝鮮白頭翁)
大陸産
      キバナチョウセンオキナグサ f. flava
  ヒロハオキナグサ P. chinensis(Anemone chinensis)
          (白頭翁・白頭公・大将軍草・大碗花・老公花)
         
『中国本草図録』Ⅲ/1128・『中国雑草原色図鑑』70
  ベニバナオキナグサ P. dahurica (興安白頭翁)
 『中国本草図録』Ⅵ/2594
  セイヨウオキナグサ P. halleri アルプス産
  ヒトツバオキナグサ P. integrifolia
  アイノコオキナグサ P. × kissii
  P. kostyczewii(紫蕊白頭翁)
  P. millefolium(西南白頭翁)
  ツクモグサ P. nipponica(Anemone taraoi var. nipponica)
         
北海道・本州の高山に産 絶滅危惧IB類(EN,環境省RedList2020) 
  ミヤマオキナグサ P. nivalis
 朝鮮(北東部)産 
  P. patens (掌葉白頭翁・腎葉白頭翁) 『中国本草図録』Ⅸ/4120
    キタノオキナグサ subsp. multifida(P.multifida, P.nuttaliana)
  カラフトオキナグサ P. sachalinensis
  カシポオキナグサ P. sugawarae
  P. sukaczevii(黃花白頭翁)
  カタオカソウ P. taraoi
 千島列島産 
  ルイコフイチゲ P. tatewakii
樺太産 
  ホソバオキナグサ P. turczaninovii(細葉白頭翁・細裂白頭翁) 『中国本草図録』Ⅸ/4121
  P. vulgaris 歐洲産 『週刊朝日百科 植物の世界』8-226 
   
 キンポウゲ科 Ranunculaceae(毛茛 máogèn 科)の植物については、キンポウゲ科を見よ。
 「和名ハ翁草ノ意ニシテ果時ニ其長花柱ノ團集セル狀宛モ老翁ノ白髮ノ如ケレバ斯ク云フ」(『牧野日本植物図鑑』)。
和名は、花の散ったのちの長い花柱が集まった様子を、老人の白髪頭に擬えて。
 方言にネコグサ・ネコバナというのは、同じものをネコの毛に見立てて。
 『本草和名』白頭公に、「和名於岐奈久佐、一名奈加久佐」と。
 『延喜式』白頭公に、「オキナクサ」と。
 『倭名類聚抄』白頭公に、「和名於木奈久佐、一云奈加久佐」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』8 白頭翁に、「ナカグサ
和名鈔 オキナグサ同上 ゼガイサウ信州筑前 シヤグマザイコ シヤグマグサ石州 チゝカウ チゴバナ加州播州 チンコバナ信州 チゝンコ仙台 チチコ野州 カハラチゴ同上 チンゴ但州 チゴノマヒ越中 オチコセハセナ水戸 カハラバナ仙台 カハラザイコ炮炙全書 ガクモチ濃州 カヅラ同上 ガクサウ同上 ツハブキ参州 ネコグサ筑前 ネコバナ筑後 ゲジゲジマナイタ加州 ダンゼウドノ讃州 ダンゼウ阿州 ゼウドノ四国 カブロ木曾 カブロサウ伊州 ヒメバナ大阪 オニゴロ越中 テングノモトドリ同上 ウナイコ花家 ウネコ薩州 ヲナイコ肥後 ウバガシラ松前 ヲバガシラ津軽 ヤマブシバナ石州 シヤンゴバナ播州龍野 ホウコグサ同上姫路 コラコラ同上木梨村 コマノヒザ仙台 ケイセンクハ備前作州 ケイセイサウ甲州備中 ヌスビトバナ肥前 ヌスドバナ和州 ハグマ泉州 キツネコンコン備後 ヲカンサウ モノグルヒ飛州 カツチキ同上 ガンボウシ上野 ジイガヒゲ藝州」と。
 漢名の白頭翁は、和名と同じく、花の散ったのちの長い花柱が集まった様子を、老人の白髪頭に擬えたものか。
 ただし、『本草綱目』白頭翁の釈名には、「根に近き処に白い茸
(にこげ)有り。状は白頭老翁の如し。故に以て名と為す」とある。
 北海道・本州・四国・九州・朝鮮・遼寧・吉林・極東ロシアに分布。
 全国では絶滅危惧Ⅱ類(VU)、埼玉では絶滅危惧ⅠA類(CR)、東京では絶滅。
 中国では、ヒロハオキナグサなどの根を白頭翁(ハクトウオウ,báitóuwēng)と呼び、薬用にする(〇印は正品)。  『全國中草藥匯編 上』pp.283-284 『中薬志Ⅰ』pp.161-169 『(修訂)中葯志 』I/385-390

   モウコオキナグサ Pulsatilla ambigua (蒙古白頭翁・新疆白頭翁)
   Pulsatilla campanella(鐘萼白頭翁・阿爾泰白頭翁)
   オキナグサ Pulsatilla cernua (Anemone cernua;朝鮮白頭翁)
     チョウセンオキナグサ var. koreana(P.koreana;朝鮮白頭翁)
  〇ヒロハオキナグサ Pulsatilla chinensis(白頭翁・白頭公・大将軍草・大碗花・老公花)
   ベニバナオキナグサ Pulsatilla dahurica (興安白頭翁)
   Pulsatilla patens (掌葉白頭翁・腎葉白頭翁)
   Pulsatilla sukaczevii(黃花白頭翁)
   ホソバオキナグサ Pulsatilla turczaninovii(細葉白頭翁・細裂白頭翁)
   カワラサイコ Potentilla chinensis(委陵菜・黃州白頭翁)
   ツチグリ Potentilla discolor(P.formosana;翻白草・翻白委陵菜・白頭翁)
   Eriocapitella hupehensis(Anemone hupehensis;打破碗花花・野棉花・湖北秋牡丹)
   シュウメイギク E. japonica(Anemone hupehensis var.japonica, A.japonica;秋牡丹)
   Eriocapitella tomentosa(Anemone tomentosa;大火草・大頭翁)
   Eriocapitella vitifolia(Anemone vitifolia:野棉花)
   ヤマハハコ Anaphalis margaritacea(珠光香靑・山萩)
   オオバナアザミ Rhaponticum uniflorum(漏盧・祁州漏盧)
   Gerbera piloselloides(兔耳一枝箭・毛大丁草)
   タイワンヒゴタイ Himalaiella deltoidea(Saussurea radiata;三角葉須彌菊)
   アキノハハコグサ Pseudognaphalium hypoleucum(Gnaphalium hypoleucum;
         翻白鼠麴草・白頭風)
   インドチチコグサ Gnaphalium polycaulon(G.indicum;多莖鼠麴草・狹葉鼠麴草)
   ノウスユキソウ Leontopodium leontopodioides (火絨草・老頭草)
   Duhaldea cappa(Inula cappa;羊耳菊・白牛膽)
   

 日本では、かつて国産のオキナグサの根を 白頭翁の代用にしたが、今は用いない。
 『万葉集』に、

   芝付
(しばつき)のみうらさきなるねつこぐさ
     あひ見ずあらばあれ
(我)(恋)ひめやも (14/3508,読人知らず)

とある「根都古
(ねつこ)草」は、一説にオキナグサであり、「美宇良(みうら)埼」は神奈川県の三浦崎であるという。
 
  おきな草口あかく咲く野の道に光ながれて我ら行きつも
     (斎藤茂吉「死にたまふ母」(1913)より、野辺送りの光景。『赤光』所収) 
  山のべにくれなゐ深き白頭翁
(おきなぐさ)ほほけしものは毛になりにけり
     
(1930「妙高高原」,斎藤茂吉『たかはら』) 
  小園のをだまきのはな野のうへの白頭翁の花ともににほひて
     (1945「疎開漫吟」,齋藤茂吉『小園』) 
  おきなぐさここに残りてにほへるをひとり掘りつつ涙ぐむなり
  をさなくてわれ掘りにけむ白頭翁山岸にしてはやほろびつる
     (1946,齋藤茂吉『白き山』)
 
 ヨーロッパでは、セイヨウオキナグサ P. vulgaris の全草を民間薬として用いた。
 北米の先住民は、P. patens(掌葉白頭翁)を薬用にした。

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